監督回想録

2016.08.01

【第4話】 世界は「編集」されている

お恥ずかしい話、中東のこと、何にも知りませんでした。
なんで、パレスチナ難民が生まれたのか?
なんで、イスラエルとパレスチナが揉めているのか?
えっと、えっと、付属校で受験勉強いらなかったし、理系だったし、高校の世界史の授業はルネッサンスで終わっちゃったし、、、(←言い訳)

ニュース見ても、複雑でよく分からないし、自分に関係ないから、シャットアウト、以上!という感じでした。(ああ、書いてて恥ずかしい)

周りの人も、
「中東=危ない。オレンジ色の服を着せられて首を切られる。」というイメージぐらいしかないらしく、(あのう、それISで、パレスチナとはまた違うんですけど・・・)
やたら、みんな優しい目で
「くれぐれも気をつけてね」と言ってくるんですね。
(お願いだから、最後のお別れ感出さないで!)

まあ、とにかく、67年間も紛争がつづくイスラエル・パレスチナへ、結構悲壮な覚悟で行くことになったわけです。

だから、パレスチナ自治区のベツレヘムに到着したとき、腰が砕けそうになりました。何がって、平和すぎて。
到着した日は、お祭りの初日だったのですが、準備でバタバタしていて、浮き足立っていて、子どもがはしゃいでて。
顔こそ日本人とは違いますが、やってることは日本の夏の盆踊りのお祭り準備と何も変わらない。

そして、パレスチナの人って、人懐っこいんですよね。
「どっから来たの?」「日本?そうか、そうか」「コーヒーでも飲んでかないか?」なんて、すごくフレンドリー。

一方、テレビや新聞の報道は、こんな感じです。
「パレスチナによるテロの報復として、イスラエルがパレスチナ自治区のガザを攻撃しました」
なんか、パレスチナ人に対し、悪いイメージ抱きませんか?そりゃ、テロなんてしたら、報復で攻撃されても仕方ない、というような気にならないでしょうか?
パレスチナ人は、テロリストで好戦的。
そういう印象さえ受けないでしょうか?

でも報道から受けるパレスチナ人のイメージと、僕が実際に目にしたパレスチナはまるで違っていました。

どう違っていたかは、ぜひ映画本編をご覧いただくとして、
「イスラエルによる占領政策で酷い目に遭いながら、希望を失わず、明るく前向きに生きている、誰よりも平和を願っている人々」
これが、実際、何人ものパレスチナ人に会った僕の印象です。

お祭りのパレードで、沿道で笑顔で手を振ってくれたパレスチナ人を動画に収めました。そして、パレスチナ人の笑顔の部分をキャプチャして、FACEBOOKに投稿しました。「パレスチナはテロをするイメージで報道されているが、真実はぜんぜん違う」という文章を付けて。この投稿は130件以上もシェアされ、「パレスチナの真実を教えてくれてありがとう」といったコメントをたくさんいただきました。ほんの少しですがパレスチナの汚名を晴らすことができて良かったと思っています。

しかし、「あ、でも、怖いな」とも直感しました。
なぜなら、僕が、マスコミの報道を鵜呑みにしたように、
みなさん、僕というメディアの情報を何も疑うことなく
鵜呑みにしたからです。

「パレスチナ人=テロリスト。好戦的」という汚名を晴らすべく、僕は意図的に「笑顔」の部分を「編集」して投稿しました。
そういう意味では、少し真実とは違うのです。でも、みなさん、それを真実だと思い込んでしまう。
実は、同じ動画を使って、全く逆の印象を作り上げることもできます。

沿道で手を振るパレスチナ人の中には、笑顔でない人ももちろんいますし、カメラが苦手で顔を背ける人も中にはいます。そういう人だけをキャプチャします。で、その写真にこうキャプションを付けて投稿するのです。

「パレスチナ人は、やはりテロリストなのだろう。やましいところがあるのか、僕がカメラを向けても誰も笑顔を返さない、あからさまにカメラを避ける者さえいる」

テロリストで好戦的なパレスチナ人イメージのできあがりです。

この経験から、
マスコミの情報は、真実ではないかもしれない。
真実の一側面を、誰かのフィルターをかけて「編集」したものにすぎない。
ということを学びました。

ある新聞記者の方に、尋ねました。
「パレスチナによるテロの報復として、イスラエルがパレスチナ自治区のガザを攻撃しました」という報道だと、パレスチナ人が先に手を出したように感じられませんか?と。
本当は、「(イスラエルによる不法で非道な占領政策に抗議して、ごく一部の)パレスチナ人がテロを行いました。その報復としてイスラエルがパレスチナ自治区のガザを攻撃しました」と伝えるべきではないかと。

記者の方の答えは、
「新聞には、その時の事実を事実のまま伝える役割がある。『いつ、どこで、誰が、何をした』の奥にある背景まで伝えるスペースがないので、どうしても、そういった紋切り型の報道になってしまう面は否めない」というものでした。

そして、背景は伝えられることなく、「パレスチナがテロをした」「イスラエルが報復した」という事実だけが積み重ねられ、どんどんパレスチナの悪いイメージだけが固定化していきます。そして、テロリストは、極々少数しかいないのに、その何万倍もの数の平和を望むパレスチナ人は存在しないことになっていくのです。

「パレスチナによるテロの報復として、イスラエルがパレスチナ自治区のガザを攻撃しました」という無味乾燥な報道の裏には、お祭りで風船を買ってもらった子どもや、コーヒーをおごってくれたおじさんや、何の罪もないパレスチナ人が、イスラエルの攻撃によって、粉々に吹き飛ばされている、という許しがたい真実があることを、知っていただきたいと思います。
(つづく)


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